先日、本屋さんをぶらぶらしていたら、この本と出会いました。
社員の力で最高のチームをつくる―――〈新版〉1分間エンパワーメント
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「私にとって最も大切な教科書だ 」 >
星野リゾート代表 星野佳路
迫力ある氏の顔写真付きの帯に引かれ、手に取ってみました。
星野リゾートはご存じのように
日本を代表する個性的な旅館を運営する会社です。
その代表である星野氏はNHKのプロフェッショナルなどの番組でよく拝見していました。
あのやり手経営者の星野さんが最も大切と言っている本ってなに?
そんなに凄い本なの?
あとがきに圧倒された!
ページをめくるうち監修者として執筆している星野氏の文章(あとがきですが)に
いつの間にか見入ってしまいました。
ちょっと長いですが、その文章を引用してみます。
1991年、私と弟の2人で父が経営していた軽井沢の旅館を継いだとき、社内には課題が山積していた。
最も深刻な問題は人材確保だった。勤務時間は不規則、休日も少ない地方の温泉旅館に就職してくれる人は多くなく、募集広告を出しても応募者は数名しかいなかった 1708(途中略)
母屋の2階にある食堂で提供していた和食は、自分が食べて美味しいとは思わなかった。
調理は板前という職種の人たちが厨房で担当していたが、「美味しくないと思う」とは決して言えない。そんなことを言った途端に、板長は辞めていくことが予想できたからだ。(途中略)
ある日、私は勇気を振り絞って板長に話してみた。「私たちの旅館では、もっと美味しい食事を出したいと思うのですが……」と聞くと、
板長は「お客様は美味しいと言っている」と反論した 1731(途中略)
そこで情報公開というエンパワーメントへの第1の鍵を使うことを思いついた。
外部の調査会社に委託して顧客満足度調査を実施し、その結果を全社員に公開した。(途中略)
すると驚いたことに、スタッフに指摘されると感情的になる板長が、顧客に「美味しくない」と言われている結果を見た途端、意地になって改善を始めたのだ 1735
(※数字は「行」ですKindleなのですいません)
彼が最も大切な教科書だ〜と表現したとおり、
もくろみは当たり、組織を立て直すことができたのでした。
いったいその理論ってどんなもの?
情報公開という「第1の鍵」って他に使い途があるの?
俄然興味がわいてきたのでした。
エンパワーメントとは何か?
そもそもこの”エンパワーメント”ってどういう意味はなんでしょうか。
エンパワーメントとは、自律した社員が自らの力で仕事を進めていける環境をつくろうとする取り組みです。社員のなかで眠っている能力を引き出し、最大限に活用することをめざしています 59
自立した社員というのは、なんとも抽象的な表現ですが、
ようは、
「社員自らが考え、計画し、行動し、評価し、仕事を最後まで管理できる組織をつくること」
のようです。
今では星野リゾートの象徴でもある「フラットな組織文化」は、ケン・ブランチャード教授が提唱する未来型の組織そのものだ。同書の中に何度も繰り返して出てくるのは、その旅は簡単ではないということ(星野氏あとがきより)1720
そう、これは未来型の組織なんですよ。
一般的な会社では社長や役員、部長などの経営陣が考えて、部下に命令し、実行させる。
しかし、エンパワーメントの組織では、社員全員が最初から企画に携わり、皆で実行しチェックし、課題の改善点をみつけながらPDCAを回すのです。
でも、
そんなことできるのかいな?
3つの鍵
エンパワーメントの組織をつくるポイントは3つあるといいます。(著者は鍵という言葉を使っています)
エンパワーメントには、次の3つの鍵が必要になる。
[第1の鍵]正確な情報を全社員と共有する
[第2の鍵]境界線を明確にして自律的な働き方を促す
[第3の鍵]階層組織をセルフマネジメント・チームで置き換える
14
詳細は本書を読んでくださいというしかありませんが
いずれも
非常にシンプルであたり前の「理想」を
あたりまえに書いてあるだけのように見えます。
こんな理想論で本当にそんな組織が作れるのでしょうか。
また、少なくとも、普通のサラリーマンには組織を変革する権限もそんなパワーもありませんから、
これは経営者向けに書かれていて、普通のサラリーマンには無関係の本のようにも思えるのです。
エンパワーメントの理論をどう活用するのか
ほとんどの組織では、目標はトップが設定し、それを下へおろします。しかし、部下には目標に対してコミットしようという意識がありません。自分で決めた目標じゃありませんからね。
もうおわかりのように、組織をエンパワーメントしたければ、こんな方法は通用しません 629
本書をシンプルに僕なりに要約すると
仕事の流れはPDCAと表現できますが、
従来の組織では
・PとA (C) … トップ
・D(C) … 部下
こういう役割分担になっていたと思いますが
エンパワーメントの組織では
・PDCA … 部下、トップ
こんな風になるということです。
もちろん、
ただやるだけで成果が上がる部署なら従来型の組織でも良いのかもしれませんが、
現在のようにハイスピードで変化する市場を相手にする組織の場合、成果を上げるにはエンパワーメント型の組織でないと難しくなります。
なぜなら、情報は現場にあり、多くを部下が持っています、その情報をいかに早く・大量に組織で共有しPやAに反映させるには、部下を計画作成段階で参加させないといけなくなるからです。
ですから本書を読んで僕が考えたのは、
シンプルです。
PDCAをハイスピードで回さなければならない組織では必然的にエンパワーメント型の組織形態にしなければ立ち行かなくなる、というものです。
だから、実は、そんな実情ですから、既に多くの企業ではエンパワーメント型の仕事のやり方を(変形された形で)採用されているのではないでしょうか。
現実は厳しいですから。
それが、星野リゾートのように企業全体まで浸透させるには時間がかかるでしょうし、ひょっとすると大きすぎる企業では無理があるのかもしれません。
いずれにしても、
そんな考え方のルーツとなる本書ですから、読んで十分に参考になるはずです。
最後に
思い出しました。
その昔、NHKのプロフェッショナルという番組で星野リゾートが特集されていた回のあるシーン。
会議の1シーンです。
社員ら20人ほどが会議室で議論をしているのですが、会議は熟し、やがて意見は膠着状態になったのでしょう、皆は押し黙ってしまいます。
すると、星野代表が
「さあ、どうしますか。どうするんですか」
そんな言葉を発して皆に発言を促しています。そのトーンは紳士的でどことなく他人ごとのようにも聞こえました。
その後、その発言に促進されたのか、ポツポツと数人が発言し、会議は落ち着くところに落ち着いたようなのですが(うろ覚えですが)、
思ったのは、代表がこんな遠慮がちに発言をして大丈夫なのか。いや、「どうするんですか」って、そんな他人任せのような発言をしている会社って大丈夫なの?ってその時は思ったのです。
会社の代表として皆をグイグイ引っ張っていくのがリーダーの姿だと信じていた僕は違和感を感じたのでした。
(うろ覚なので違ってたらすいません)
しかし、本書のあとがきを読んで、
納得しました。
それはエンパワーメントの組織をめざし、必死で社員の自発性を喚起しようとしている経営者の姿だったのではないか、と。
恐らく、星野リゾートもその組織を安定させるのに大変な労力がかかったに違いありません。今の組織に落ち着くまで簡単ではなかったでしょう。
もし、そんな組織が存在するならぜひ、見てみたいし、体験もしてみたい。
面白そうですよね。
本書を読んで、この組織論を理想論で終わらせるかどうかはあなた次第でしょう。
チーム運営のなにがしかのヒントになるのは間違いありません。
一読をお勧めしておきます。
社員の力で最高のチームをつくる―――〈新版〉1分間エンパワーメント
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